あなたの疑問に答えます
お悩み解決ライブラリー
本企画は、読者の皆さんからお寄せいただいたリアルなお悩みや疑問をもとに、その分野の専門家に取材するコーナーです。
お悩み
「気持ちに余裕がなく、毎日イライラします」/後編
今回の専門家
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西多昌規 (にしだ・まさき)
早稲田大学スポーツ科学学術院教授、早稲田大学睡眠研究所所長。精神科医。専門は睡眠医学、精神医学、身体運動とメンタルヘルス。睡眠、休養、ストレス対処、アスリートのメンタルケアなどをテーマに研究・診療・発信を行う。著書に『休む技術』『眠っている間に体の中で何が起こっているのか』など。
編集部
前編では、寝不足や疲れ、思い通りにならない状況が重なると、心と体が警戒モードになり、感情のブレーキが利きにくくなることを伺いました。後編では、頭の中に抱え込んだものを外に出し、忙しい毎日の中で心に余白を取り戻す方法について、西多昌規先生に引き続き伺います。
自分で抱え込む量を減らそう
編集部
イライラを少しでも減らすには、何から始めればいいのでしょうか。正直、「ゆっくり休みましょう」と言われても、その時間がないから困っている、という人が多いように思います。
西多
そうですね。「休んでください」と言われて休めるくらいなら、すでに休んでいますよね。それでもイライラをどうにかしたいのであれば、できることから少しずつ取り組む必要があります。まず意識したいのは、「脳の負担を減らすこと」です。
忙しい人の頭の中は、常にいろいろな予定や用事でいっぱいです。仕事の締め切り、家の用事、返していないメール、買わなければいけないもの……。そうした「まだ終わっていないこと」が頭の中に積み重なっていくと、ワーキングメモリがいっぱいになってしまうのです。
編集部
「ワーキングメモリ」という言葉、聞いたことがあるような気はするのですが、具体的にはどういうものなのでしょうか。
西多
ワーキングメモリとは、「いま使う情報を一時的に頭の中に置きながら、考えたり判断したりする働き」のことです。たとえば、人の話を聞きながら内容を理解する、買うものを覚えながら買い物をする、仕事の手順を考える。こうした場面では、必要な情報を一時的に頭の中に置きながら、同時に考えたり判断したりしています。このときに使われているのが、ワーキングメモリです。
ストレスや用事が重なると、頭の中で処理しなければならないことがどんどん増えていきます。すると、ワーキングメモリ、つまり頭の中の作業スペースがいっぱいになって、うまく働きにくくなるのです。これはパソコンでたとえると、たくさんのファイルを開きすぎて、動きが遅くなっている状態ですね。
そのため、「聞いたはずなのに覚えていない」「何から始めればよいかわからない」と感じやすくなります。睡眠不足も、ワーキングメモリの働きに影響します。小さなミスやトラブルが増えると、それ自体がまたストレスになり、イライラを強める一因になることがあります。
CHECKテスト
ワーキングメモリ、いっぱいになっていませんか?
- 話を聞いている途中で、最初の内容を忘れてしまう
- 複数の指示を一度に言われると、何から始めればよいかわからなくなる
- 作業中に話しかけられると、何をしていたかわからなくなる
- 忘れ物やうっかりミスが増えた
- 文章を読んでいて、途中で内容が入ってこなくなる
- 暗算や頭の中での段取りが面倒に感じる
- 予定や段取りを考えるのに時間がかかる
- 会話の流れについていきにくい
- やることが重なると、頭がいっぱいになる
- イライラしたあと、気持ちを切り替えにくい
※当てはまる項目が多い人は、頭の中が「開きっぱなし」になっているかもしれません。
※このチェックは、医学的な診断を目的としたものではありません。
編集部
たしかに、寝不足の日は、いつもより仕事に時間がかかったり、ちょっと計画がずれただけで焦ったりしますね……。でも、「睡眠不足をなんとかしましょう」と言われても、すぐには難しい人も多いと思います。私もその一人なのですが……。
西多
そうですよね。その場合は、睡眠はできる範囲で長くとるようにして、まずは「頭の中に置いているものを外に出す」ところから始めてみてください。
紙のメモでも、スマホのメモでも、Google Keepのようなアプリでも構いません。思いついた用事、気になっていること、あとでやらなければいけないことを、いったん書き出してみるのです。
「ここに書いたから、今は覚えていなくていい」と思えるだけでも、ワーキングメモリにかかる負担は軽くなります。
編集部
書き出すだけなら、すぐにでもできそうです。でも、書き出した瞬間に「こんなにあるのか……」と、逆に落ち込むこともありそうですね。
西多
そうですね。実際に書いてみると、頭の中に抱えていたものが見える形になるので、最初は多く感じるかもしれません。
そのときは、やらなくてはならないことを、「すぐやる」「少し先でいい」「まだ先で大丈夫」といった、「時間軸」で分けてみてください。優先順位で考えると、「これも大事、あれも大事、結局全部最優先だ」となってしまう。でも、「いつやるか」で分けると、少し落ち着きます。
今日は「すぐやる」ものだけに目を向ける。それ以外は、いったん置いておく。それだけでも、頭の中はかなり整理されます。
休みはサボりではなく、立て直す時間
編集部
時間軸で分ける方法、試してみます! しかし寝不足を解消することはなかなか難しくて……。これは読者の皆さんにも多いと思うのですが、私は「こんなにやることがたくさんあるのに、休んでいる場合じゃない」と思ってしまうんです。
西多
休むことに罪悪感があるんですよね。しかし、休むことはサボりではありません。休むことは、「気持ちを立て直すため」に必要な時間なのです。スマホだって、充電がなければ動きませんよね。ところが人間は、充電が5%くらいしかないのに、そのままペースを落とさず動き続けてしまう人が多いのです。
その状態で、予定が崩れたり、思い通りにならないことが続いたりすると、マグマのように溜まっていたイライラが爆発しやすくなります。ですから、自分がイライラしていることに気づいたら、まずは少し立ち止まる勇気をもちましょう。
本当は休んでほしい、睡眠をとってほしいのですが、難しいときにはせめて
- 席を立つ
- 少し歩く
- スマホから目を離す
- 深呼吸する
- 温かい飲み物を飲む
を意識して行ってください。忙しくて熱を帯びていた頭を、クールダウンさせるきっかけになります。
編集部
「休む」というと、まとまった時間を取らないといけない気がしていました。短い時間でもいいんですね。
西多
はい。むしろ、忙しい人ほど「小さく休む」ほうが現実的です。「疲れたら休む」ではなく、あらかじめ決めておくのがコツです。
- ここまでやったら立つ
- 30分たったらスマホから目を離す
- 午前中に一度、お茶を飲む
休みを気分に任せると、たいてい後回しになります。そして、気づいたときには心のブレーキがかなり弱っているのです。
編集部
「休みも予定に入れておく」ということですね。確かに「余裕ができたら休もう」としていると、永遠に休めない気がします。
西多
その通りです。余裕は、待っていてもなかなか生まれません。だからこそ、こちらから少し取りにいく意識が大切です。
イライラは、自分を責める材料ではありません。心と体が「少しペースを落としたい」と知らせてくれているサインです。
- 睡眠を整える
- 頭の中の「開きっぱなし」を減らす
- 休む時間を先に決める
- 席を立つ・歩く・深呼吸するなどして、高ぶった頭を少し静める
どれも小さなことですが、続けていくことで、少しずつ心に余白が戻ってきます。気持ちに余裕がないときほど、自分を追い込むのではなく、まずはできるところから整えていきましょう。
今回のお悩み解決のヒント
イライラは、心と体が「もう少し休みたい」と知らせているサインでもあります。まずは頭の中にあることを書き出し、今すぐやることを絞り、小さく休む時間を先に確保してみましょう。すべてを一度に変えようとしなくても大丈夫です。できることから少しずつ整えることが、脳の余力を取り戻し、心の余白につながります。